建築模型とは
(更新2024年12月3日)
- 建物を設計したり、建設したりする前に予め形態や大きさ、使い勝手などを確認するために製作する検討用模型(スタディ模型)
- 建物の完成した様子を表現した完成予想模型(プレゼンテーション模型)
- 博物館やテーマパーク、資料館などで動作や仕組の説明目的に作られる展示模型(演出模型)
- 住宅やマンション販売業者による販売支援模型(商業模型)
に大別されます。
その中でも、建築模型の製作頻度は完成予想模型よりも設計に伴う形態検討や使い勝手を検討するために作る「スタディ模型」が圧倒的に多いといえます。
特に、建築家と言われるような”専門家”や大規模な開発を伴うビルディング開発を行う”ゼネコン”などでは頻繁に模型(スタディ模型)を製作し質の高い建築を目指しています。
特に注目したい点は優良な住宅メーカーや建設会社ほど模型を使う傾向が高いということです。
模型製作はコストが掛かりますが、それだけの手間をかけても模型を必用とすることに勝組企業は気付いているのです。
※日本建築界のカリスマ建築家の安藤忠雄先生もスタディー模型の重要性を語られています。
では、私たちが模型に接するにはどこにゆけばよいかといえば、身近な住宅展示場やマンション販売センターに出向いたり、博物館、資料館などに見学に行った際に体験することが出来ます。
※日常的にはテレビの報道番組などで紹介される事件現場や飛行機事故などの説明にミニチュア模型が作られることがありますがあれもれっきとした建築模型の仲間ですね。(徹夜で大道具さんや取引のある模型製作会社が製作しています)
※一般的に模型を連想する場合「プラモデル」「鉄道模型」「帆船模型」「ジオラマ」など趣味的(個人的)な模型を指す場合が多いと思いますが、建築模型は「設計をサポート」する目的や「販売促進」に利用することが多く、そうゆう意味では「商業利用模型」というジャンルに位置付けられた「プロフェッショナル」な人々に扱われる模型といえます。
※建築模型専門会社の製作例がこちらに紹介されています。
※建築模型の作り方はこちらで紹介しています。
建築模型基礎知識
日本の建築模型の歴史
みなさんご存知の法隆寺や清水寺など、歴史建築物建設当時も縮尺模型を製作しています。
1000年以上も前から建設に伴う現場には模型が作られてきました。
これらは、建設手順や部材寸法などを確認するために必要不可欠で、作者は宮大工さんが直々に作っています。
江戸時代の建築設計に伴う用途で模型が使われた例としては、茶室の完成イメージを紙で作った「おこし絵模型」という”飛び出す絵本”のような模型が作られています。
現在のような建築模型の基礎を作ったのは、近代建築の完成予想模型からでしょう。
石やレンガのような規則的な形態を組み合わせた構造物を作る近代建築は、従来の日本建築のような「木」を使った材料では製作時に難点が多く、作るのが大変です。
ともかく平坦な板を作るだけでもとても難儀だったと思います。
そこで、建築模型の製作方法について職人が知恵を出してあみ出したのが「石膏模型」でした。
石膏という素材は最初は粉状ですが、水を加えて数分の間は流動性のある液体で、その後硬化して石(それほど硬くはありませんが)のような素材に変化します。
この特性を利用して、平坦なガラス板を2枚用意して片方のガラスに石膏を少量流し、その上にガラス板を乗せるとガラスとガラスの間に石膏の薄い膜が出来出来ます。
ガラスの間隔を均等なゲージなどで調整することで2ミリとか3ミリの薄い均等な石膏ボードを作ることが出来ます。
このような方法を応用してレンガ模様の型板を使って部品を作り本格的な建築模型が作られるようになってきました。
※今でもその名残で石膏屋さんの建築模型屋さんが沢山あります。
スチレンボードの登場
昔の建築模型の製作方法は大変難しいものでした。ともかく石膏の板を接着するにも切断するにも職人技が必要でした。とても素人の出来るものではありません。
そのために建築模型の製作価格はとても高額なものでした。(現在もそのなごりで模型は高額です)
※余談ですが、建築模型専門会社の製作している模型は小さな模型でも5万、10万はあたりまえで、マンション模型になるとうん百万円うん千万なんていう価格になります。
近年、石膏に変わる素材として「スチレンボード」が登場したことで、誰でも簡単に建築模型を製作することが出来るようになりました。
白い素材から連想できるように石膏模型の代用品として建築模型の素材に使えることは良質な建築設計をサポートする意味でも画期的なことでした。
スチレンボードとスタディー模型
建築の勉強をした人であればスタディー模型にスチレンボードを使用することは常識と思いますが、スチレンボードの使用範囲はスタディー模型に留まりません。
表面に印刷を行ったり、プリントしたシールを貼ったりすることにより色付きの素材に変身させることが出来るため比較的簡単に完成模型を作ることが出来ます。
プロフェッショナルな建築模型
いろいろな建築物を設計する際にスタディ模型を製作することは先に説明しましたが、スタディ模型の段階で設計の内容がほぼ固まった後は完成予想模型を製作することもあります。
完成模型とは実際に建設されたように着色され、外壁の様子や建物の周囲の植物の配置などを表現するところまで忠実に再現される建築模型です。
住宅展示場やマンション販売センターなどでご覧になられた方も多いと思いますが、この模型を製作している業者がプロの建築模型士となります。
模型の製作方法も会社ごとに沢山ありそれぞれの職人さんが腕を磨いていることでしょう。
建築模型の練習をされたい方向けに建築模型キットがあります。こちらで紹介しています。
建築家と模型の関わり
世界的に著名なレンゾ・ピアノという建築家(イタリア・パリ・ベルリンに拠点を構え活動)の場合、建築模型工房を自社に所有し、優秀な職人の作り出す※「木製建築模型」の奏でる優雅な魅力は設計の質を問うまでも無く、まさに芸術と言える領域の作品と言えます。
建築に対する文化レベルの高い欧米では建築模型を作る職人の地位も確立されており、設計者の考えを引き出すパートナーとして最新建築の協同作業をしているわけです。
そう言う意味では、日本の建築模型の歴史は石膏模型から入っているためレンゾ・ピアノの建築模型のような木製(バルサ材ではないですよ)模型の持つ感性を呼び起こすような貴賓はないですが、日本独特のプロダクツ的な建築模型はわが国の建築模型として相応しいものではないでしょうか。
※欧米の建築模型の多くは日本のようにプラスチックや紙などの素材で作られていますが、建築家と呼ばれるレベルの巨匠では木質模型で表現することが多く、この領域に到達するためには長い年月を掛けて感性を磨かなければ到底製作できるものではありません。
※日本の建築模型にも「木製建築模型」はありますが、日本の建築文化の急速な変化の過程で「木」という素材では対応出来ない事態や時代の変化による「素材そのもの」への敬遠などがあったのではないかと考えられます。
欧米の「木質模型」では日本のような大きな変化もなく、長い歴史の中で育まれた職人により進化しています。
- 使用する材質の違い (日本→針葉樹・欧米→広葉樹)
- 木質模型に関連して(軸組在来工法)
建築模型の使われ方
最も一般的なものとしては「住宅模型」です。
と言っても、質の高い住宅を求める方以外では接することが少ないものかも知れません。
兵庫県芦屋市六麓荘町の町内会では町内の景観を守る為に、新築や改築の際に建築模型の提出を義務付けることを徹底しているようです。(読売新聞掲載)
(住宅メーカーでは質の高い製品を提供している「セキスイハウス・ダイワハウス・ミサワホーム」(アイウエオ順表示)等は積極的に模型を利用されています。)
意欲的なメーカー・工務店は模型を有用利用していますが、顧客ニーズに対応出来ていない工務店などは建築模型の利用はないようです。
結果的に優良メーカーが建築模型を利用する意味は営業メリットが高いことを理解しているため売上貢献に繋がっているようです。
さて、住宅を購入する際に住宅模型を通して、いろいろ検討したり購入の比較をされた方は、かなり「レベルの高い住宅」を購入されたと言ってよいでしょう。
量販型の大手住宅メーカーでは、模型の重要度をかなり意識して販売に活用されていますので、住宅契約時に何回か模型の変更を通して設計士さんとやりとりをされていることと思います。
昨今、住宅意識が以前より高まっているために住宅の質の向上は目覚しいものがあります。試しに一度住宅展示場を見学されると実感されることと思いますが、大手メーカーの質の向上度はすごいですね。
例えば、断熱・防音・換気・耐震・耐火等を見てみても、住宅購入に意識のない方は大手は営業収入最優先というイメージがありますが、量販ならではのコストダウンを武器に魅力的な住宅を築いていることは間違いないと言えます。
進化した住宅ならではの問題として、間違った住宅を「購入しない・させない」という正しい販売の姿勢が現れています。
住宅は人生最大の買物です。30年も住宅ローンを組んでヘンテコな家を買ってしまったと判明した時には人生を台無しにしてしまいます。もし、現在住宅建設を考えている方がいれば住宅会社に「模型で説明してもらえますか?」と質問してみてください。そして、返答が曖昧な建設会社は関わらないほうが賢明と思います。
住宅模型を製作する場合、1棟製作する費用として3万円~15万円程度掛かります。ここで重要なことは、住宅模型を通して住宅を購入された方の感想として、ほとんどの顧客から「満足のゆく住宅を建てることが出来た」というコメントが得られていると言うことです。
模型製作の費用は「満足のゆく住宅」を得るための投資と考えるべきで「安物買いの銭失い」とならないように建てる前の事前チェックは住宅購入の鉄則ですね。
模型を上手に使われている顧客から聞いたお話では一般のお客様は「建築模型使用の有無によって建築会社のグレードの判断もされている」ようです。(模型を使わない会社理由はコストダウンとの声が多いようですが数万円の模型費用を捻出できないことは言い訳であって、へたに詳細を説明すると仕事が増えるのでというのが本音のようです。こういった会社にクレームやトラブルが多いことは予想できます。住宅は生涯最大の買物ですからお客様の立場に立った設計士や工務店に建てて頂きたいものです。運悪く儲け主義の建築会社に引っ掛かりたくないものです。)1棟の住宅建設に1台の模型は必要ですね。
補足として
建売住宅を購入された場合は完成した建物そのものを見学して購入することが出来るため「最も現実的」ではないかと考えるところですが、理想的には建ててしまう前に一度模型を利用して確認するのが正解であるべきです。選択肢のない状況で現場で良否を決めて購入した場合は、実際に使い初めてから「後悔する」ことに繋がることも多いようです。
今まで説明してきたように、住宅模型の用途としては※「検討」「比較」「確認」などのプロセスを「建築模型」を通して擬似的に検証することが出来たために良質な住宅を求めている顧客の要望を「解決」してきた訳です。
このことからわかるように、住宅メーカでは住宅販売の問題解決や顧客の要望を満たす住宅を販売するために「住宅模型」を製作して営業に利用して、顧客満足を満たしながらコンセンサスを得ることをが営業の基本と考えているようです。
次に多い用途としては「マンション模型」です。
マンションの場合、建設から完成するまで1年以上も掛かるため、これからマンションを購入するお客様は自分達の購入するマンションの比較検討をするための何らかの材料が必要となります。
そこで「マンション模型」が必要になってくる訳です。
マンション販売メーカ側としては、良質なマンションをPRするため様々な工夫を設計に取り込み、そして模型で表現します。この辺のプレゼンテーションによりお客様の要望を満たされているマンションの販売が成立します。
日本人の購買特性として、手に取って比較検討して良否を決める傾向がありますが、住宅販売もまさしく「模型」を通して行われています。日本のような販売システムは欧米にはない独特なもののようですが、今後スタンダードになる可能性を秘めている魅力的なジャンルではないでしょうか。
※ちなみに、住宅模型を使用して販売支援行っているメーカーは繁盛している会社ほど利用する傾向があります。使用しない会社は模型の利用価値を知らないと同時に繁盛していないために費用が捻出出来ないといと考えられます。商業模型としての「住宅模型」は商売繁盛のためのツールとして考えることが重要ではないでしょうか。
※日本建築(在来軸組工法)の場合、どれも形式的な構造で、大工さんと顧客の間でトラブルがないため(文句を言えない?)一般的に模型を使うことはごくまれである。また構造計算が必要ないためコンセンサスを得る必要もない。但し、時代の変化に対応した住空間を求める顧客の要望に応えられない建設業者は衰退する傾向にある。
※検討する内容として、広さ、使い勝手、間取りなどがあります。最近では断熱特性(断熱構造)や耐震特性などを検討することも多くなっています。
記述:からくり模型研究家 STUDIOSAKAI,INC.代表 酒井俊孝
(お問合せ質問などあればはこちらまでどうぞ)